※ネタばれあり※
読むきっかけ
どういうきっかけで読むことになったのか不明だけど、おそらくは、
- いつかはカズオ・イシグロを読んでみたかった
- 手に取って、最初の書き出しを読んだときに、スムーズに引き込まれていった
という二つの要素が合わさったからだと思う。
お気に入りのところ
お気に入りは物語の始まりと最後のところの2か所。
まずは、物語はこんな感じで始まっている。
わたしの名前はキャシー・H。いま三十一歳で、介護人をもう十一年以上やっています。
ずいぶん長く、と思われるでしょう。
とくに何も問題ない、平凡な、働いている(おそらくは可愛らしい)女性のつぶやきからはじまったと思っていた。
でも、最初から介護人(英語ではcarer)、提供者(英語ではdonor)という、聞き覚えのあるけど、少し違和感のある単語が前触れもなく、当然のように出てくるので、早くも胸がざわつきはじめたことを覚えている。
やがて読み進めるうちに、これらの意味と彼らの進んで行く先の残酷なゴールが分かってくると、とても驚いてしまった。
また、最後の章は、何度も(特に疲れた時など)読み返しているくらい好き。
トミーとわたしは、特別な別れの行事などしませんでした。
で始まる、「別れ」の場面が、あっさりとした控えめな感じで、本の解説の表現を借用させてもらうならば、「細部まで抑制が利いた」感じでとても好きです。
実際のお別れのシーンはこんな感じ。
そのあと、わたしたちは軽くキスを交わし、わたしが車に乗り込みました。車の向きを変える間、トミーはじっとそこに立っていて、車が発進すると、笑顔で手を振りました。わたしはバックミラーで見ていました。トミーが長い間そうして立っていて、最後の瞬間、もう一度手を上げるのがぼんやりと見えました。トミーは背を向け、張り出し屋根の方向に歩き出し、広場がミラーから消えました。
ちなみに、これは「本当の」「最後の」別れのシーン。
「また明日」とか「また来週」というのではない。
「抑制」が利きすぎなのである。
そうは言うものの、パートナーとの人生最後の別れ方は、こんな感じの方が幸せなのかも、といろいろと考えてしまう。
ドラマ化もされている
ちなみに、2016年にTBSのドラマとして金曜の22時からやっていた。
オンタイムで妻と一緒に見ていたけど、よくこんな救いのない話をドラマにしたなぁと思ってしまったことを覚えている。
でも、見れて良かったです。
キャシーは綾瀬はるか、トミーは三浦春馬が演じていた。
ドラマでも小説と同様に、最後の方で、キャシーとトミーは「最後の望み」を打ち砕かれる。
そして、これも同様に、トミー(三浦春馬)は絶叫しながら暴れるというシーンがある。
彼はどんな想いで演じていたんだろう?
さいごに
トミーはキャシーにこんなことを言っている。
おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その水の中 に二人がいる。互いに相手にしがみついてる。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。おれたちって、それと同じだろ? 残念だよ、キャス。だって、おれたちは最初から──ずっと昔から──愛し合ってたんだから。けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん
救いようのない物語だけど、読むことによってとても救われた気がする。
いつか、この二人がまたどこかで、ちゃんと出会って欲しいと思っています。