【読書ノート】羊と鋼の森 宮下奈都

ピアノの調律師のお話。
若い男の子が主人公で、まだ新人ではあるが、ピアノの音を映像化というか、匂いも含めた体全体で感じることができる特殊な能力を持つ。

森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。

素敵な能力があるものの、まじめで、努力を怠らず、とても謙虚であるし、それどころか、まったく自信がない。
こんなギャップを持つ主人公に、強く惹きつけられました。
僕だけではなく、おそらくは多くの人が惹きつけられるだろうと。

また、小説の中の記述は無かった(と思う)が、主人公の体形はスマートで、かっこいいのだと思う。
脂ぎった小太りで、肌が汚く、ぶさいくで、トイレは便座を上げたままで、終わった時もそのまま、食べる時には音をくちゃくちゃ鳴らすようだったら、ひっくりかえってしまう。
そう、一般的に脂ぎったピアノの調律師なんて想像つかないですよね。

物語は壮大なスケールでもなく、深い感動もないものの、読みやすく、気分が良くなるような感じだった。

主人公の男の子は、森で囲まれた小さな村の出身であるためか、木や花の名前をとてもよく知っているものの、当たり前すぎて、

「木の名前を知っていても、それだけのことです。役に立つこともありません」

などと謙遜してしまう。(僕もこう言ってみたい)

それに対して、先輩はこんな素敵な回答をする。

「なるべく具体的なものの名前を知っていて、細部を思い浮かべることができるっていうのは、案外重要なことなんだ」

確かにそうだと思う。

話は変わり。

僕もかつて、小さいころにピアノを習っていました。
おそらくは僕ら世代は結構習っていたと思う。
そして、ピアノの調律師が一年に一回は来ていました。
調律師がくることによって、音が変わったか、というと記憶が定かではありません。
ただ、きちんと調律をしていないピアノは音が明らかに変だったという違いは分かりました。

何よりも、そういうピアノは鍵盤が汚い(使用前は手を洗いましょう)。

あと、ドレミ・・・の音階はもちろん聞いて分かったし、これらが3つ混ざった和音の区別もちゃんとできていました(今では無理だと思う)。

ピアノをやめてから10年以上たった高校生くらいのころ、お昼に、ただ騒がしいだけのお笑い番組がやっていました。
タレントに対して「絶対音感テスト」なるものをこれから始めるとのこと。
どんなテストだろう?と思って聞いていると、ただ単に、一つの基本的な音を鍵盤で鳴らしてあてるというもの。絶対音感とはいいがたい、簡単すぎてテストになるかよ、と思って見ていました。

すると、有名アイドルグループの一人が見事に外しており(何回も)、
「本当に分からないの?」
と当時、びっくらこいてしまいました。

テストになっていたのでした。

世の中の広さとアイドルの闇の深さを感じたのを覚えています。

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